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●詩、小説●
2023-07-02 18:47:01~嵐の夜~ 人魚姫
作 林柚希
ざ~、ざ~。ゴゴー。
「姉さん、海の上は嵐のようね。」人魚姫はちょっと不安そうに言った。
「大丈夫よ。人間は死ぬかもしれないけどね。」ウインクして姉さんは言う。
「姉さん、それはあんまり・・・。」人魚姫はたしなめた。
「いいのよ、私はあまり人間が好きではないの。」姉さんは、しょうがなさそうに頷いた。
すると、ポコン、と人魚姫の頭に靴があたった。
「船は沈んだのかしらね。」姉さんは面白くもなさそうに言った。
その靴の匂いを嗅ぐと、なんと以前に一度会ったラウルのものだった。
「まぁ、ラウルの靴だわ。」人魚姫は、一気に上機嫌になった。
どうやら、海上の船は沈んでしまったようだった。
だから、急いで考え直して、人魚姫は姉さんと別れると、
ラウルを探しに行ったのだった。
ラウルは、友達のイルカが、コンブに巻かせて動かないようにしていた。
人魚姫はイルカにお礼を言うと、イルカはキューと鳴いて去っていった。
人魚姫は、ラウルを抱えると泳ぎだし、自分の家の泡の中に連れて行った。
ペシペシと顔を叩き、ラウルの様子を伺う人魚姫。
「う・・・。」
ラウルが気が付き、人魚姫は身じろぎした。
「ラウル、大丈夫?」心配げに人魚姫は覗く。
「いや、頭が痛くて。」ラウルが顔を振って改めて周囲を見ると…。
そこには、人外の女性と思われる存在と、海の底の不思議な世界が広がっていた。
女性をよく見ると、以前に会ったような?
「君は誰だい?」
「私はパールよ。」ニッコリと微笑んで、「ようこそ、ラウル。」パールが答えた。
「パール?…パールだって!?」驚くラウル。
「以前に、小舟で釣りをしていたわよね?」ちょっと楽しくなってきたパール。
「そ、…あの時の女性か!驚いたなぁ。」ラウルはビックリし通しだ。
「君は、…パールは人間ではないの?」思い切ってラウルは尋ねた。
「そう、残念ながら人魚なの。」ちょっぴり残念そうにパールは答えた。
「でも、おかげで遭難しかけたラウルを助けられたのよ。いいでしょ?」パールは少し得意げだった。
「ああ、船は難破しちゃったんだね。助けてくれてありがとう。」ラウルは真面目に言った。
「だけど、どうやってお城まで戻ろう…。」
「大丈夫よ、嵐が去ったら岸辺まで連れて行くからね。」パールは笑顔で答えた。
「パール、君は命の恩人だよ!本当にありがとう。」ラウルもそう答えた瞬間だった。
ボグッっと、鈍い音がして、ラウルが倒れた。
なんと、さっき話していた姉さんが、棒でラウルの頭を殴ったのだった。
「姉さん、なんてことを…!」パールはびっくりしていた。
「ラウル、大丈夫?」思わずラウルに話しかけているところを、姉さんに止められた。
「パール、ダメよ!泡の家は誰でも見せていいものじゃないの。」姉さんは、叱るように言った。
「そのまま気を失ったままにして、朝になったら岸辺に連れて行きなさいよ。」姉さんは言うだけ言うと去っていった。
「そんな。」パールは悲しんだ。でも。
「しょうがない。姉さんの言うとおりにしよう。」
やがて嵐は去り、少し空が白んじてくる頃、海上にザバっとパールとラウルの姿があった。
すいーっと泳ぎだし、岸辺にたどり着くと、そっと抱きかかえたラウルを置いて。
「もう少し、話したかったな。」思わず独り言を言うと、一人海に戻った。
海のある程度先まで戻ると岸辺を振り返り、ラウルを観察するパール。
すると、とある女性が、近づいて「あの…。」とラウルを揺り起こしていた。
「ん…。」ラウルが気づいた。
「どうしましたか?」女性は、気づかわし気だ。
「あれ?僕…、今まで何を?」?マークだらけのラウルだった。
「昨日は嵐のようでしたけれどあなたは遭難したんではないですか?」女性は、心配している様子でもある。
「はぁ、僕は船に乗っていたのですけれど、難破して、それで…。」うっと詰まると、パールとの会話やその世界を走馬灯のように思い出していた。だけど、頭が痛い様子。
頭を押さえているラウルを見て、女性は名乗ったのだった。
「私はオリビアと言います。修道院にいますので、そこで介抱しましょう。どうかついてきてください。」
「僕はラウル。非常に助かります。ありがとう。」頭を押さえながら自己紹介をした。
ラウルが立ち、ラウルを支えてオリビアは乗ってきた馬にラウルを乗せて、岸辺を去ったのだった。
あとに残された人魚姫は、悲しそうな顔をすると海に戻っていった。
※よく言われる所の「人魚姫」を私なりに解釈して、イメージを広げて掲載しています。
物語の初めは、こちらになります。
紹介「~邂逅~ 人魚姫 vol.1」
物語の続きは、こちらになります。
紹介「~嵐の夜~ 人魚姫 vol.2」
物語の続きは、こちらになります。
紹介「~相談~ 人魚姫 vol.3」
物語の続きは、こちらになります。
紹介「~お側に~ 人魚姫 vol.4」
物語の続きは、こちらになります。
紹介「~最期 前編~ 人魚姫 vol.5」
物語の最後は、こちらになります。
紹介「~最期 後編~ 人魚姫 vol.6」
物語の番外編になります。
紹介「~番外編 イチョウ並木~ 人魚姫 vol.7」
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